奈良事件と母体搬送
尾鷲に2人の産科常勤医が決まり、隠岐でも産科が再開したとのニュースを聞いて、まだまだ産科は頑張れるんだなぁ~と思っていた矢先、またもや鬱になる事件が報道されました。
奈良の妊婦死亡(実際には褥婦だと思いますが)事件。本当にお気の毒な事件だなと思います。
一般の争点は、以下二つのようですね。
1,内科医がすすめた(とされる)のに、CTを撮らず診断が遅れた。
2,搬送先が見つからず、搬送までに時間がかかった。
CTうんぬんについては、状況が良くわからないので、何とも言えません。
CTを撮っていれば助かったと思っている人が多いような気がして、報道に疑問を感じる部分は多いですけど。
搬送を拒んだ病院は現在の所、計19病院が判明しているとのこと。
私は、比較的分娩件数が多いのにNICUの無い中規模病院に勤めているので、母体搬送にはしょっちゅう立ち会います。
搬送先を探すのが大変なんですよ・・・。
手順としては、まず近隣の周産期センターを持つ病院の産科医に電話。そこで受け入れ可能かどうか即返事を貰えることは滅多になく、一旦電話を切って、対応してくれた産科医が病棟のベッドや小児科の先生に打診している間、じっと待ちます。
最終的に回答の電話をもらえるまで、だいたい10分から20分くらい。
そこでダメだと分かったら、次に近い病院に電話して、同じ作業を繰り返す。
しらみつぶしです。(その途中で、「○○病院が空いてるらしいよ!」という情報をゲットすることもあり・・・しかし大抵「今、他の依頼を受けちゃいました」と言われる)
まあまあ都会で、受け入れてくれる病院も星の数ほどありそうなのに、全然受けて貰えなくて途方に暮れる事なんてしょっちゅうです。
10件以上に電話することも、日常茶飯事です。というか、5件以内に決まると「今日はラッキーだったなぁ」と思う。
だから私は、搬送を依頼するときは、いつもカルテにどの病院に電話して、どんな理由で断られたかを書いておく。
搬送を受けてくれる側も、本当にみんないっぱいいっぱいでやってるんですよね。
それが分かるから、「ちゃんと受け入れるシステムを作れ」なんて、簡単には言えないです。
妊婦転送死亡:脳内出血見抜けず 遺族への謝罪、検討中--大淀病院長が会見 /奈良
◇緊急搬送遅れで妊婦死亡
大淀町立大淀病院で妊婦の緊急搬送が難航した末死亡した問題を受け17日、同病院は記者会見を開いた。原育史(やすひと)院長(63)は初めて公式に脳内出血を見抜けなかった診断ミスを認めた。しかし、病院の責任を問われると明確な答えを避けた。また、遺族への謝罪も「検討中」と述べるにとどまり、歯切れの悪さはぬぐいきれなかった。(会見での主なやりとりは次の通り)
--搬送になぜあれほど時間がかかったのか
けいれんが起きたので産科担当医を呼んだ。(分〓(ぶんべん)中にけいれんを起こす)子癇(しかん)発作を疑った。ここでは対応が難しいので県立医大病院に転送を依頼したが、満床なので医大病院が他の病院への依頼を始めた。異常分〓は医大病院に連絡し、責任をもって受け入れ先を探していただく形になっているが、なかなか見つからなかった。
--内科医は脳の異状の可能性を指摘していた。その根拠は。また、それでもCT(コンピューター断層撮影)を撮らなかった理由は
けいれん、いびき、瞳孔が開く状況があり、内科医は頭に何か異状が起こっていると思ったようだ。一方(主治医の)産科医は、頭の中に出血があると血圧が高くなるのに当時は安定しており、子癇発作を疑い、動かすことの悪影響を考えて撮影しなかった。結果的には脳内出血だった。子癇と疑ったことに判断ミスがあった
--病院の責任は
遺族と誠実に話し合いを継続している。非常に難しい問題です。
--謝罪の予定は
そのあたりも検討中。
--今後の対応は
医師研修制度が始まり、大学病院も医師不足になって派遣医師を引き揚げた。ここ(大淀病院)も04年に31人いた常勤医師が今は26人だ。麻酔医も常勤はいない。医大病院を中心にしたネットワークの再確立が必要で、そうなると聞いている。
毎日新聞 2006年10月18日
奈良県警が業務上過失致死容疑で捜査へ 妊婦死亡問題
2006年10月18日
奈良県大淀町の町立大淀病院で妊婦(32)が分娩(ぶんべん)中に意識不明の重体になり、大阪府内の病院に搬送後、脳内出血で死亡した問題で、奈良県警は業務上過失致死容疑で捜査する方針を固めた。大淀病院は「死亡にいたるミスがあった」と認めている。県警は同病院関係者から慎重に当時の治療内容などについて聴く方針。
17日に会見した同病院は、ミスの内容として、(1)主治医が、妊婦の意識喪失を失神と判断した(2)妊娠中毒症の妊婦が分娩中にけいれんを起こす「子癇(しかん)」と判断し、脳内出血を見抜けなかった(3)そのためCT(コンピューター断層撮影)を撮らず、脳外科の治療を優先しなかった――などを挙げた。
同病院などによると、主治医が分娩誘発剤を投与した後、妊婦は頭痛を訴え、意識を失った。その後、妊婦の血圧が上昇し、けいれんがひどくなるなど容体が悪化。同病院では対応できなくなったため、他府県の病院に受け入れを打診する間、当直の内科医がCTの使用を助言。付き添っていた家族も頼んだが、主治医は「安静にして受け入れ先が見つかるのを待つ」と聞き入れなかったという。
また、重体となった妊婦の受け入れを拒んだ病院はその後1病院が新たに判明し、計19病院とわかった。内訳は、奈良県の2病院と大阪府内の17病院。
コメント
なんか最近こんなのばっかりですね。
医療って何なんだろうって思います。
結果しか求められてないのかな・・・・
だったらこの過酷な状況を何とかして欲しいです。
朝、TVでこの患者の家族がこの医師が何かのときに仮眠していたと怒ってました。
寝ることも許されないんですかね?
マスコミの報道の仕方も無責任です。
煽るだけ煽ってそれだけですもんねぇ。
それとこれは前から感じることなんですが・・こういう搬送云々の話になるとたいてい電話して説明して・・・ は主治医の仕事なんですよね。
他の人が状況説明しにくいのはわかるけど看護師でも事務でも情報伝達に協力して主治医が治療に専念できるようにしてくれればいいんだろうけどなんでもかんでも医者の仕事ってしてしまえばいいって思われてないですかねぇ?
考えすぎ??
投稿者: Miya | 2006年10月19日 00:40
はじめまして。
循環器内科医のDr. Iと申します。
奈良の今回の件。
第二の福島になりそうな予感がしますね。
受け入れが不可能なのに、たらい回しとか、受け入れ拒絶とか。
ただ放置したわけではないのに、誤診して放っておいたとか。
マスコミは言いたい放題ですね。
また、お産が出来るところが減りそうですね。
TBさせて頂きますね。
今後ともよろしくお願い致します。
投稿者: Dr. I | 2006年10月20日 21:43
>Miya先生
どうもです。搬送の電話に関わるロスタイムは、私も以前から気になってました。
電話の近くにかなり拘束されて、患者さんを見に行くことも出来ないし・・・ 患者さんや家族からは、休んでるようにしか見えないでしょうね。
>Dr.I先生
刑事事件として逮捕になったら、もう産科は崩壊するでしょうね・・・
投稿者: mariko | 2006年10月21日 16:34
たまごどんと申しますピョン。お医者さんではないけんど、この大淀問題は大変関心があるのら。
maribooピョンのブログでこれからも勉強させてもらうんで、これからもヨロシクなんだピョン。
二重にトラックバックしたみたい。ゴメンなのら。
投稿者: たまごどん | 2006年10月22日 19:56
たまごどんさん、コメント&トラバ有り難うございます。
この問題はどのように収束していくんでしょうね・・・
投稿者: mariko | 2006年10月24日 18:20