早剥について・・・
常位胎盤早期剥離(略して早剥)は、赤ちゃんが子宮の中にいる状態のまま胎盤がはがれはじめてしまう病気で、妊娠中に起こる合併症の中ではもっとも危険な物の一つ。腹痛を訴えて来院されたときには赤ちゃんがもう亡くなっていることもあるし、ちょっと時間が経つと母体の命も危険にさらされます。
だから、早剥と診断したらすぐに帝王切開をするのが原則です。
って、ここを見てらっしゃる方の多くは知ってることとは思いますが・・・。
何年か前にみていた妊婦さん。妊娠中は何の問題もなく普通に陣痛が来て入院し、ごく普通に経過を見ていました。
経過中、児心拍モニターでちょっと赤ちゃんが調子悪いかな?と思って内診してみると、血清羊水(羊水が血液混じりで真っ赤になること)がみられました。エコー上は明らかな胎盤剥離の所見は無かったけれど、早剥を疑って緊急帝王切開しました。
もちろんご本人とご家族に早剥の危険性などをお話しした上でのことです。
帝王切開でも、部分早剥が認められ、自分としては手術して良かったと思いました。
早めの対応だったからか、赤ちゃんは元気で、普通に母児同室して普通に退院していきました。
患者さんの方は・・・。自分が帝王切開になったことについて最後まで思い悩んでいる様子でした。
理屈の上では分かってくれていたと思います。でも、自覚症状も殆ど無く、産まれた赤ちゃんも元気、自分も元気、本当に帝王切開ではないといけなかったのか・・・。
今回帝王切開になったことで、次回のお産も自然分娩は困難になってしまった。
本当に下から産めなかったのか。
明らかには責められなかったけれど、そんな感じでした。少なくともあまり感謝はされなかったな。
早剥に関連する訴訟記事を読むたび、こういう事も思い出します。
今後も早剥を疑ったら帝王切開するという自分の方針に代わりはないけれど、もし実際に早剥で無かった場合に「切らなければ良かった」と訴えられるケースは確実に出てくるのではないかと思います。
記事は続きの方で。
長野赤十字病院医療過誤訴訟:病院側が4400万円支払いで和解 /長野
仮死状態で生まれた長女が死亡したのは病院が適切な処置を怠ったためとして、長野市内の両親が長野赤十字病院(長野市)を設置する日本赤十字社(東京都)を相手取り、慰謝料など約6000万円の損害賠償を求めた訴訟は28日までに、病院側が4400万円を支払うことで和解が成立した。
訴えによると、母親は01年3月、近所の産婦人科医院で胎盤早期剥離(はくり)の可能性を指摘され、救急車で長野赤十字病院に運ばれたが、同病院は「明確な所見は認められない」と診断。その後、帝王切開の緊急手術で長女が生まれたが、10日後に死亡した。手術決定まで約20分かかったという。
手術決定の遅れと死亡との因果関係が争われ、これまでに「帝王切開決定までに遅れがあったが、注意義務違反の状況が極めて悪質とはいえない」と互いに認めた。
原告側の弁護士は「裁判所による鑑定書で、因果関係の可能性は十分にあったとされた」と話し、同病院の事務部長は「過失はないと主張してきたが、結果責任を重く受け止めた」と話している。【谷多由】
毎日新聞 2006年9月29日